離婚問題

離婚届を勝手に出されてしまった場合どうしたらよいでしょうか?

離婚届を勝手に出された,という場合に,大きな分かれ目になるのは,署名と押印をしたのは自分なのか,それとも相手に勝手になされたのかという点です。

離婚届を勝手に出された場合,相手方は離婚届が無効であることを話し合いで認めてはくれないでしょう。
したがって,離婚無効確認の調停を,合意がない限り,相手方の住所地の家庭裁判所に申し立てることとなります(家事事件手続法245条1項)。
同調停手続きにおいて,離婚届が偽造であることを主張することになります。
調停で話し合いが決着つかない場合は,裁判に移行することとなります。

話し合いによる離婚(協議離婚)は,夫婦双方が離婚意思を有していないと有効に成立しません(民法764条,同法739条)。
したがって,形式的には整っている離婚届が提出・受理されても一方に離婚をする意思が,離婚届提出時になかったのであれば,離婚は無効です。
もっとも,ここでいう離婚をする意思については,夫婦関係を実質的に解消するのだ,という意思までは不要であるとします。

したがって,社会生活上結婚といえるような同居生活を続けながら,何らかの方便のため,合意の上で離婚届を提出したような場合であっても,判例上,離婚意思は認められています。
たとえば,夫が仕事の関係で多額の借金を作り,強制執行を受けそうであったことから,一時的に離婚をしたという事案であっても,離婚意思は肯定されました(大判昭16・2・3)。

以上のことからすれば,離婚届を勝手に出されたというときに,自分の欄の署名・押印をしたのが自分か相手か,というのは関係がないと考えられるかもしれません。
しかし,裁判所は,書面を重視しますので,離婚届があり,そこに自著や押印がなされているのであれば,離婚意思があったのだろうと考える傾向にあります。
自分で書いたのでなければ,筆跡を争う等の方法もありますが,自分で書いたのであれば筆跡を争うことはできません。その意味で,自分で署名・押印をしたかどうかが重要になるのです。

もっとも,自分で署名・押印したら絶対に離婚の無効が裁判所に認めてもらえないのかといえば,そうではありません。
例えば,夫婦仲が悪くなって別居をしていた夫婦が,離婚届を作成し,それを保管していた妻は作成後約10日経ったのち,他の人に頼んで離婚届を提出してもらったという事案において,提出された前日に,夫が市役所の係員に対し,受理しないでくれと申し出ていたことを重視し,離婚は無効とした裁判例(最判昭34・8・7)があります。

なお,相手に勝手に署名・押印をなされてしまったというのであれば,それは犯罪です。
具体的には,役所に提出する目的で離婚届に署名押印をするのは有印私文書偽造罪(刑法159条1項)ですし,その偽造した離婚届を実際に役所に提出するのは偽造有印私文書行使罪(刑法161条)です。
さらに,戸籍に虚偽の記録をさせるのは電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)になります。ただし,これらの罪で逮捕されることはあまりないようです。